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最高裁判所第一小法廷 昭和31年(オ)966号 判決 1958年3月13日

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人弁護士津田勍の上告理由第一点について。

しかし、借家法五条は、賃借人の債務不履行ないしその背信行為のため賃貸借が解除されたような場合には、その適用がないものと解すべきことは、当裁判所の判例とするところであるから(民事判例集一〇巻四号三五六頁以下第二小法廷判決参照)、これと同一趣旨に出た原判決は正当であつて、所論は採るを得ない。

同第二点について。

しかし、留置権は、物の占有者がその物に関して生じた債権の弁済を受けるまでその物を留置することを得るに過ぎないものであつて、物に関して生じた債権を他の債権に優先して弁済を受けしめることを趣旨とするものではない。従つて、裁判所は、物の引渡請求に対する留置権の抗弁を理由ありと認めるときは、その引渡請求を棄却することなく、その物に関して生じた債権の弁済と引換に物の引渡を命ずべきものと解するを相当とする。引用の判例は本件に適切でない。されば、判示有益費の支払と引換にする本件明渡請求を認容した原判決は、正当であつて、所論は、その理由がない。

よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 斉藤悠輔 裁判官 入江俊郎 裁判官 下飯坂潤夫)

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